令和6年5月17日、民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)が成立しました(同月24日公布)。
この法律は、こどもの利益を確保するため、こどもの養育に関する父母の責務を明確化するとともに、親権・監護、養育費、親子交流、養子縁組、財産分与等に関する民法等の規定を見直すものです。
この法律は令和8年4月1日に施行されます。
<主な改正内容>
1.親の責務に関するルールの明確化
【こどもの人格の尊重】
父母は、親権や婚姻関係の有無にかかわらず、こどもの心身の健全な発達を図るため、こどもを養育する義務を負います。その際、こどもの意見に耳を傾け、その意見を適切な形で尊重し、こどもの人格を尊重しなければなりません。
【こどもの扶養(生活保持義務)】
父母は、親権や婚姻関係の有無にかかわらず、こどもが親と同水準の生活を維持できるように扶養しなければなりません。
【父母間の人格尊重・協力義務】
父母は、親権や婚姻関係の有無にかかわらず、こどもの利益のため、互いに人格を尊重し協力し合わなければなりません。次のような行為は、この義務に違反する場合があります。
- 父母の一方から他方への暴行、脅迫、暴言等の相手の心身に悪影響を及ぼす言動や誹謗中傷。
- 別居親が、同居親による日常的な監護に、不当に干渉すること。
- 父母の一方が、特段の理由なく他方に無断でこどもを転居させること。
- 父母間で取り決められた親子交流を、特段の理由なく、実施を拒むこと。
その他、こどもにとって不利益と判断される行為等がある場合、義務違反とされることがあります。
2.親権に関するルールの見直し
これまでの民法では、離婚後は父母の一方のみを親権者と定めなければなりませんでしたが(単独親権)、今回の改正により、父母双方が親権を持つ『共同親権』を選択することが出来るようになりました。
【親権者の定め方】
- 父母の話し合い(協議)で、共同親権にするか、単独親権にするかを決める。
- 父母の話し合いで決まらない場合や、様々な事情、こどもの利益の観点から、家庭裁判所が親権者を決める。
【父母双方が親権者(共同親権)である場合の親権の行使について】
親権は父母が共同して行う必要がありますが、監護教育に関する日常の行為をするときや、こどもの利益のため急迫の事情があるときは、親権の単独行使ができると定められました。
| 日常の行為にあたる例(単独行使可) | 食事や服装の決定、観光目的の旅行、通常の予防接種、習い事など |
| 日常の行為にあたらない例(共同行使) | こどもの転居、進学先の決定、重大な医療行為、こどもの口座開設など |
| こどもの利益のため急迫の事情があるときとは | DVや虐待からの避難、緊急の医療行為など |
- 親権の行使についての具体的な内容については、法務省作成のQ&A形式の解説資料(民法編)をご覧下さい。(外部サイト)
3.養育費の支払い確保に向けた見直し
【合意の実効性の向上】
取り決めた養育費の支払いがない場合、公正証書や調停証書などの債務名義がなくても、父母間で作成した文書に基づいて、差押さえの手続きを申立てることができるようになります。(先取特権の付与)
【法定養育費】
離婚のときに、養育費の取り決めをしていなくても、こどもの監護を主としている父母は、他方に対して、一定期間、一定額の「法定養育費」を請求することができるようになります(養育費を取り決めるまでの暫定的、補充的なものです)。
【裁判手続の利便性向上】
養育費に関する裁判手続きをするうえで、家庭裁判所が当事者に対して財産や収入情報の開示を命じることができるようになります。
4.安全・安心な親子交流の実現に向けた見直し
- 家庭裁判所の手続中に親子交流を試行的に行うこと(試行的実施)に関する制度が設けられました。これにより、こどもの心身の状況等を評価し、こどもの利益を最優先に考慮した親子交流を定めることができるようになります。
- 婚姻中の父母が別居している場合の親子交流のルールが明確化され、こどもの利益のため、父母は協議により親子交流に必要な事項を定めることが明確になりました。
- 父母以外の親族(祖父母等)とこどもの交流に関するルールが設けられ、こどもの利益のため、特に必要があるときは、家庭裁判所は父母以外の親族とこどもの交流を実施するよう定めることができるようになります。
